陶芸に関する悪戦苦陶の話
遺書箱(第二十話)


MAio108では水曜日と土曜日に木工教室が開かれる。

一昨年 ボクがここに来た頃は誰も陶芸工房を覗く人が居なかった。近頃はいろんな人が覗いてボクの淹れたコーヒーを啜りながらいろんな話をしてくれる。

「釣りばか日記」の映画に登場する建設会社社長スーさん役の三国健太郎に似た野田さんは木工を始めて10年のベテランだ。

野田さんの作る作品はベッドの隅にある空間にCDを入れる棚だったり部屋の家具の隙間にある空間に引き出しを作ったり精密なものが多い。

野田さんは若い頃、酒造会社で13年間サラリーマンをした。九州へ転勤を言われて脱サラし三鷹に喫茶店を開業した。
二人のお嬢さんの結婚を期に閉店し公園の管理人になる。

管理人時代 管理人の役で映画に出演したこともある。
ボクは野田さんの話を聞きながら野田さんの重厚感のある風貌から主演男優を飲み込んだのではないかと想像した。

大きな体にどんよりした目、ゆっくりした話口調からご家族への思いやりのある優しいお話を聞かして頂いた。

元々ある持病が悪いのでと昨年の秋にMAio108を去った。

最後の作品はA4サイズの箱だった。箱の蓋には象嵌で「遺書」と書かれてあった。
野田さんは「別に遺書を入れるつもりはないんだよ。ボクが居なくなって家族が困らないように土地の権利書なんか入れて置くんだ」と寂しそうに笑った。






2006⁄04⁄28(Fri) 21:27   未分類 | Comment(0) | Trackback(0) | ↑Top
マナー川柳(第十九話)


街路樹のハナミズキが綺麗な季節になった。電車の窓からもハナミズキの淡い白やピンクが見える。

午後からの会議でボクは京王線で新宿に向かった。午前10時頃の車中は程良い混み具合で田舎者のボクにも苦痛は少ない。

7人掛けの椅子の一番入口寄りに座っていた。一駅前に乗り込んで来た若者のリックサックがボクの顔に当たって気になっていた。

同じ7人掛けの椅子の片方の入口に座っていた五十代のご婦人の携帯の呼び鈴がなった。近頃はマナーが良くなり車中で長話する人はめっきり減った。

ボクはリックサックが気になりながら携帯の長話も珍しいなと思っていた。

急に顔にあっていたリックサックが無くなりホッとしていたらリックサックの若者は携帯のご婦人の前に立ち「ここは電車の中でしょう。携帯は止めなさい」と毅然として言った。

ご婦人は話している相手に「今 電車の中、電話切るね」と素直に若者に従った。

京王線の車中に乗客からの投稿されたマナー川柳がある。数ヶ月毎に「優先席」「酔っ払いの迷惑」「ゴミ」「ヘッドホンステレオの音漏れ」「乗降の迷惑」などテーマによって応募される。

リックサックでは
第19回 「そのリック 突きあり押しあり パンチあり」
第12回 「子の顔が リックに挟まれ ギブアップ」

携帯電話では
第16回 「自己チューが 車チューで携帯 通話チュー」
第3回  「電話かけ 迷惑かけて 気にかけず」

など最優秀作品が入口に掲示される。

ボクは直接 リックサックの若者のように他人に注意する勇気が無いので車内のマナー向上に貢献するため、数回マナー川柳に応募した。

何れも選外だったようでボクの川柳を車内で見かけたことがない。
自信作だったのだが・・・

もしかして ボクの川柳もエッセイもリックサックの若者のようにマナーを他人に注意しながら誰かに迷惑をかけているのかもしれない。


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2006⁄04⁄21(Fri) 22:56   未分類 | Comment(0) | Trackback(0) | ↑Top
花散らし(第十八話)


春のお天気は冬の神様と夏の神様が綱引きをするので「春に三日の晴れ間なし」と言われるくらい変わりやすい。

二三日前に強い風と雨も上がった土曜日の朝 カミサンをさそい車で近くの桜並木を走った。
府中市の桜通りと国立市の桜通りに車を止めて花見としゃれ込んだ。どちらの桜も春爛漫で見事な艶やかさを老夫婦にサービスしてくれた。

夜はMAio108のメンバーで夜桜の宴となった。MAio108の鉄人達が朝から仕込んだおでんや料理を振舞ってくれ参加メンバー18名の大変楽しい花見の会だった。

ボクの作った好色徳利もお酒の味と宴の雰囲気を盛り上げるのに一役買ったようだ。
酔うほどに好色徳利を抱きしめ裏に書かれた説明文を眺め感心して頂たりと多くの関心を集めて作者としてそれを眺めているだけで充分に良い酒を頂けた。

桜の花の咲くころに降る雨を「花散らし」という。

「花散らし」を広辞苑で調べてみたら旧暦の3月3日を花見とし、翌日 若い男女が集会して飲食すること(九州北部地方でいう)と記されてあった。
旧暦の3月3日は新暦の3月の末の頃、花見をして今の合コンを行うことを云っていて天候のことを言っているのではないようだ。

好色徳利の裏側には
「注ぐとき 
 良い徳利はトク・トク・トク
 悪い徳利はドク・ドク・ドク
 好色徳利はイク・イク・イク
        と音がします」
と書かれていた。

さて、花見の翌日の合コンで散るのは 男・女?



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2006⁄04⁄13(Thu) 18:49   未分類 | Comment(5) | Trackback(0) | ↑Top
送別会(第十七話)


昔読んだ司馬遼太郎の著書で「古来日本の男はよく泣いた。現代の男よりよく泣いた。友と再会すれば泣き、旅に出る別離にはまた泣き」と書かれたと記憶する。
昨年から一緒に仕事をして来た上司が退社することになり送別会が行われた。

40年近くサラリーマンをしていると何回送別会に出たか分からないくらい出席している。退社・転勤・配置換えでいろいろな送別会がある。
大きな居酒屋の広い部屋で他のお客さんと一緒の会場であったり簡単な間仕切りはあるが隣の席と話が筒抜けで騒々しいただの飲み会と少しも違わない送別会であったりと場所も様々である。
出席人数も100名近い大人数から数名の小さい規模の送別会がある。
義理で出る送別会も多い。

今回は同じ営業所の8名の小さな送別会だった。幹事は営業所で一番若い二人で取り仕切ってもらった。
デパートの5階にある中華屋で奥まった部屋に丁度8人入れる部屋がありそこを探して設営したらしい。送別会の設営として素晴らしい設営だった。

ボクは仕事の関係で少し遅れて参加した。
この日は一日中何故か泣きたいような憂鬱な一日だった。送別会も出来たらキャンセルしたい気分だった。

サラリーマン生活も長くなるといろんな上司とも仕事をした。仕事をしやすい上司、なかなか組みにくい上司といろいろ経験してきた。

就任の最初から難題を多く抱え、停滞気味の営業所に活を入れ立派な営業所に育て上げた。一年間の短い間だったが非常に仕事のしやすい職場を築いて頂いた上司だった。

一人一人の意見に耳を傾け戦略戦術を全員で作り上げていく。経験の少ない社員には実践で範を示す。ベテランの社員には経験を充分に発揮できるように配慮する。率先垂範を実践する営業部隊の理想的な上司だった。

今回の営業所員全員の挨拶からこの上司の人柄が伺えた。営業所員全員から感謝の言葉が贈られた。

ボクは今までで一番つらい送別会だった。時代が幕末だったら多分ボクは号泣していただろう。






2006⁄04⁄07(Fri) 06:09   未分類 | Comment(5) | Trackback(0) | ↑Top
芸術家 三宅さん(第十六話)


第十五話で登場した三宅直子さんはボクのような俄か芸術家と違い、あちらこちらから展示会の声がかかる。
作品は 陶器だけでなく鉄とのコラボレーションであったり、木工とのコラボレーションであったり、鉄と木と陶器の組み合わせであったりする。
展示会の目的に合わせて色んな組み合わせを自由自在に操り見事な作品を作り上げる。

画材もボクからは考えも付かない処から引き出してくる。
ある日 小さなものをスケッチしていた。ボクの老眼にはよく見えなかったが数種類の花の種を描いていたそうだ。

三月の初旬に日本橋で作品展があると案内を頂いた。絵画の二人と三宅さん 三人での展示会だった。案内状のタイトルに「PARTICLE―万象のー」とあった。

昨年から数回案内を頂いていて一回も三宅さんの展示会を観てなかったので出かけた。

壁に二人の画家の絵が掛けてあった。一人の画家の絵は白いシーツにオネショのシミの様な模様ともう一人の画家の絵は綺麗な色の組み合わせた円形の模様で何を現しているのか良く分からなかった。

ギャラリーの中ほどに天井から吊るされた針金の先に先日作成していた色々な形をした直径10cmほどの種が数個ぶら下がっていた。下には大地を思わせる ひび割れた円形の素焼きの陶板が敷き詰められていた。
10畳ほどのギャラリーにはボクの他に客はいなかったので置いてあった椅子に腰掛けしばらく眺めていた。

この中央に展示された作品から赤茶けた太古の大地に今 生命が生まれる準備をしている鼓動を感じ始めた。
周りに展示されたシーツのシミのような作品が雲に変わりこの大地に雨を降らせる。もう一つの原色を使った明るい円形の作品が太陽に変わりシャンシャンとこの大地を照りつけ始めた。
今にもひび割れた大地から生命が芽生え、見るみる間に周りが緑の平原に変わっていく。そんな空気を感じる空間と時間だった。

案内状に書かれた「PARTICLE―万象―」の意味が最初はよく分からなかった。
「粒子・・・天地に存在するさまざまな形・・・」

俄か芸術家のボクにも少し理解できた気分で日本橋 水天宮の三愛水天宮ビル1階「SAN―AI GALLERY」を後にした。


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2006⁄04⁄02(Sun) 07:35   陶芸 | Comment(0) | Trackback(0) | ↑Top

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プロフィール

Author:どうしょう花
サラリーマン生活が残り一年になりました。
宮崎での単身赴任時代に始めた陶芸が十年になります。
昨年 年末に窯を持ちプロとしての環境が整いました。
サラリーマン生活を悔いのないように全力でラストランしたいと思います。
週末は、陶工への道にむかい励みます。
還暦前の老人が悪戦苦闘している日々を「どうしょう花」がエッセイにして毎週水曜日に掲載致します



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