陶芸に関する悪戦苦陶の話
スペイン人が工房にやって来た(第四十六話)


秋台風が太平洋で大暴れした次の日、今秋初めて多摩川の向こうに少しだけ雪を冠ぶった富士山が見えた。

長男がスペインを旅した時お世話になったバルセロナのチャビさんとカロリナさんがお昼過ぎに工房を訪れた。チャビさんは28歳のネットワークエンジニア。カロリナさんは24歳の小学校の先生。

オーナーの西野さんから鉄工工房と木工工房を案内して頂く。
西野氏の設計した建築物や装飾品の写真を見てカタルーニャ人(*)の二人はガウディー(アントニオ・ガウディー 19世紀末のバルセロナの建築家)の作品のように素晴らしいと絶賛した。

西野さんの話の後に陶芸の体験教室を開催した。いつもの様に陶器の歴史・種類・作り方を一通りレクチャーして手捻りで抹茶茶碗を作ってもらった。
チャビさんもカロリナさんもボクの指導が良かったようで見事な茶碗を作り上げた。

夕食は日本の家庭料理をご馳走しようと狭い自宅マンションに案内した。
自宅に友人などが来客した時、ご馳走する我が家の定番料理をカミサンが腕をふるってくれた。さつま揚げ・ポテトサラダ・お好み焼き・ゴーヤのおしたしを料理し今日は特別にお寿司を注文して加えた。
二人はどれも美味しいと喜んでくれた。特にお好み焼きを目の前で焼いて出したのには感激した様子だった。ボクの好きなゴーヤは一切れ食べて嫌な顔をしてその後箸をつけなかった。

ボクは九州の友人から貰った 取って置きの焼酎“かめ壷貯蔵「五百年蔵」”の壷から竹の柄杓でボクの作った片口に注ぎボクの一番気に入っているぐい飲みで焼酎のお湯割を呑みながら日本の陶器と精神文化について語った。

安土桃山時代の茶道とともに発展した陶器とその時代背景、日本人の精神など分かりやすく話したがあまり興味がなさそうだった。

ボクは英語が全く駄目なので長男に通訳してもらった。カロニナさんは英語とスペイン語が話せるがチャビさんはスペイン語だけしか話せない。チャビさんへは長男の英語からカロニナさんのスペイン語で伝える為に全く意味が伝わらなかったようだ。

日本人の長男もボクの話しに興味がなさそうで適当に通訳したのが原因だったような気もする。若い外国人二人には特に興味がなさそうだった。大学で聴いた興味のない分野の面白くない講義と同じだったのかもしれない。

最後にボクは、人生の先輩として せっかく日本に来たのだから少しだけでも日本語で話した方が良いとアドバイスした。

チャビさんが「ドーモ」と応えてくれた。

翌日 長男は二人の買い物につきあった。
チャビさんが東急ハンズ(ホームセンター)の陶器のコーナーでキティーちゃんの絵柄の付いたコーヒーカップを手に取り真剣な眼でじっと見つめ「このセラミックには魂が入っていない」とつぶやいたそうだ。

ボクはこの時の様子を長男から聴きながらバルセロナに行ってみたいと思った。


*カタルーニャ人:スペインの一民俗(バルセロナはカタルーニャ地方の中心都市)
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2006⁄10⁄26(Thu) 21:06   未分類 | Comment(6) | Trackback(0) | ↑Top
日本のミケランジェロ「西野和弘氏」(第四十五話)


MAio108の工房では土曜日に木工や鉄工・陶芸の教室が開かれていて賑やかだ。日曜日は、MAio108がお休みの事もありボク一人で工房を独占して作業ができる。

半年ほど前から日曜日の朝 工房に着くと鉄工工房から二胡(にこ)の音が聞こえるようになった。

オーナーの西野氏が五十の手習いで二胡を始めたそうだ。
二胡は中国の弓湊弦楽器。二弦の擦弦楽器で弓を右手に持ち、弓毛(馬尾毛)を弦と弦の間に挟み、左膝の上に立てて擦奏する。

テレビで中国の綺麗なお嬢さんが演奏するのを観た事があるが実物を見るのは初めてだ。

テレビで聴いた二胡の音は物悲しい音色だったが半年前 鉄工工房から聞こえてくる音は、すりガラスに爪を立てて擦ったようなギーギーと嫌な音が聞こえた。
子供の頃、友達と教室で、我慢比べで すりガラスに爪を立ててよくやったなーと想いだしながら陶芸工房のラジカセにソニーロリンズ「*」やビル・エバンス「**」のCDを入れボリュームを上げて鳥肌の立つのを防いでいた。

中年の親父の手習いなんか色っぽい年増の師匠がいてスケベ心半分で二・三ヶ月もすりゃー止めるだろうと高をくくっていた。

三ヶ月を過ぎた辺りから物悲しい中国の音色が聞こえ始めた。ジャズのボリュームを上げなくてもロクロが挽けるようになった。

益々熱が入り演奏の練習は朝から午後1時頃まで続く。
今では上達した気持ち良い二胡の音が流れてきてロクロも調子よく挽けるようになった。素晴らしい演奏も一時間くらい聴くのが限界のようで一時間過ぎるころからロクロの上の土がクネクネと曲り形にならなくなり始める。ボクは立ち上がりソニーロリンズのCDをラジカセにセットする。

秋の長雨が上がった日曜日に西野さんが工房に入って来て昨日二胡の演奏会があり緊張したが楽しかったと話された。

練習を始めて半年で上級者コースにはいり演奏したそうだ。西野さんの練習は日曜日の5時間近くの特訓以外に毎日作業のあいた時間に必ず練習をしているとMAio108の若者から聞いた。異例の上達は天性もあるが努力の賜物のようだ。

西野さんの話によると中世の芸術家たちは一つの事に秀でていたわけでなく複数の領域で才能を発揮した。例えばミケランジェロは偉大な建築家で芸術家だった。

西野氏は建築家で木工・鉄工・陶芸の芸術家。
「ミケランジェロのようですね」とボクがいうと西野さんニコッと笑って「私は二胡の演奏も出来る」と胸を張った。


* ソニーロリンズ:テナーサックス(ジャズ)
**ビル・エバンス:ピアノ(ジャズ)

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2006⁄10⁄19(Thu) 21:01   未分類 | Comment(8) | Trackback(0) | ↑Top
マンションのモデルルーム「2」(第四十四話)


次の週末 工房に着くと巨大ポットの窯焚の最中だった。昨夜 8時間かけて50度のあぶり「*」を行い、さらに100度まで8時間をかけてあぶっている。

MAio108ではこの一ヶ月マンションのモデルルームに設営する作品を鉄工・木工・陶芸で一人二点くらいテーマを持ち制作している。
このマンション全体の設計はMAio108のオーナーである西野和弘氏が設計した建築物だ。

水曜日までにモデルルームに運び込み設営するそうで鉄工の作品はほぼ完成した形を現していた。

マンションのエントランスをモデルルーム内に併設させている。マンションのモデルルームに見学に来たお客様がまずエントランスを通りモデルルームに入る。エントランスに彼らの製作した作品が並ぶ。マンションが完成した時、実際にこれらの作品は全て持ち込まれエントランスに設営される予定になっている。

次の土曜日に完成したマンションのモデルルームの写真を見せてもらった。
前の週に聞いたとおりエントランスに入ると正面に吹き抜けの鉄で出来たつい立がある。一畳ほどのつい立には鉄製の花が咲いている。左側には広い空間があり白と黒の砂が縦模様に敷きつめられている。白黒縦模様の砂の上には先週窯の中にあった白い巨大ポットが置かれている。ポットには鉄製の葉っぱが飾られている。
エントランスの中央には巨大なアルミで出来た葉っぱが中央の照明を覆っている。壁にある照明には鉄製の葉っぱが覆っている。葉っぱの間からこぼれる光が幻想的な空間を醸し出している。
受付の台には、木製の花が取り付けられている。応接用のガラスで出来たテーブルの下に鉄製の花が飾られている。

エントランス全体がMAio108の若い芸術家達の作品で出来上がっている。

設計した西野さんに「ヨーロッパの街並みに建っているようなマンションですね」とボクは云った。
西野さんの話によるとローマの街並みはミケランジェロが設計したそうだ。
ローマにはミケランジェルの設計した有名な建築物 サン・ロレンツォ教会図書館、サン・ビェトロ大聖堂、フォルネーゼ宮増築がある。これらの建物が建ち並ぶローマは街並全体が芸術作品で綺麗だと言った。

こんな芸術作品に囲まれたマンションが増えていくと日本の街並みがさらに美しくなるだろうと西野さんの話を聴きながらボクは思った。



「*」あぶり→窯内の温度を均一にする為と粘土の水分を抜く為、800度位まで時間をかけて温度を上げていく。特に100度で水分が水蒸気に変わる前後は気をつける。


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2006⁄10⁄12(Thu) 21:52   未分類 | Comment(7) | Trackback(0) | ↑Top
マンションのモデルルーム「1」(第四十三話)


すっかり秋になり空が高くなった。多摩川の土手を気持よさそうに人々が歩いている。

週末 MAio108の工房に着くと大きなポットがロクロの上に置いてあった。白い色をした高さが80cmの見事なオブジェのポットだった。

MAio108の陶芸部門 三宅さんの作品だ。

MAio108で設計したマンションのモデルルームのオブジェを製作しているそうだ。

鉄工工房に入ってみるとカンちゃん(横尾 勘)が大きな一畳位の広さの枠に立体の花模様の壁を製作している。
太郎ちゃん(大森太郎)は直径3mくらいの大きな電灯の傘を製作している。
中村さんは入口のテントの枠を作成している。
広瀬さんはガラスのテーブルの下に飾られる鉄製の花を製作している。

木工工房では木製の受付に使うテーブルが作られていた。テーブルの端には彫刻された花が取り付けられている。
皆な何だかいつもより楽しそうに作業している。

皆な楽しいそうだがポットを製作している三宅さんだけは不安そうな顔をしていた。納期が迫っていて一発勝負の窯焚になるのが原因らしい。注ぎ口の付け根と把手の繋ぎ目はしっかり作られているがこれだけ大きいと絶対壊れないと言う保証は何もない。

鉄と木工は途中からやり直しがきく。陶芸は失敗したら最初からやり直しになる。この位大きい作品だと乾かして焼きあがるまでに最低二週間から三週間はかかる。アマチュアのボクは何を作るときも期限がなく気楽に製作しているが三宅さんはプロの為、時間に追われて製作していることが多い。

ボクは将来、陶工を目指している。巨大ポットの前で、緊張しているプロの陶芸家・三宅さんを見ているとボクの中にいる弱気な虫が「ムリ・むり・無理」と這い出してくる。


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2006⁄10⁄05(Thu) 22:12   未分類 | Comment(7) | Trackback(0) | ↑Top

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プロフィール

Author:どうしょう花
サラリーマン生活が残り一年になりました。
宮崎での単身赴任時代に始めた陶芸が十年になります。
昨年 年末に窯を持ちプロとしての環境が整いました。
サラリーマン生活を悔いのないように全力でラストランしたいと思います。
週末は、陶工への道にむかい励みます。
還暦前の老人が悪戦苦闘している日々を「どうしょう花」がエッセイにして毎週水曜日に掲載致します



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