陶芸に関する悪戦苦陶の話
仕事着(第九十話)


水曜日 ボクは仕事の途中、MAio108の工房に立ち寄った。
MAio108では水曜日と土曜日に鉄工、木工、陶芸の教室を開催している。
磯田さんは土曜日に陶芸、水曜日に木工を習っている。

ネクタイをしてMAio108の工房に行くと磯田さんが木工をやっていた。
ネクタイ姿のボクに気が付かず前をとおった。ボクが「こんにちは」と声を掛けると磯田さんは驚いて「あれ どうしたんですか ネクタイなんかして」と言った。ボクは「あ 本業の仕事着なんですけど」と応えた。磯田さんは「似合なーい、あははは」と笑った。

ボクは、社会に出た三十八年前からズーと、ネクタイを締めてきた。

三十代の頃、取引先の医薬品卸の女子社員からスーツの似合う男性 ベストスリーに選ばれたことがある。

それからボクは、ネクタイに気を配っているのだ。
ボクは、その日着るワイシャツの色でネクタイを選ぶ。それから背広を選ぶ。背広はクロ系がほとんどで、他は紺かグレーである。ボクは、オシャレなので茶色も持っている。
男のオシャレは、ワイシャツの襟の形とか色とかもあるが、大した代わり映えがしない。せいぜいネクタイくらいである。

ボクは、背広姿に自信をもっていた。
それが似合わないとは、なんたることだ。

陶芸教室のある土曜日 ボクは、工房で、ほとんどの時間をロクロに向かって過ごす。頭に白い鉢巻、腰にタオル姿でいる。磯田さんは、一年前から土曜日に陶芸にかよってくる。ボクのネクタイ姿などは、一度も見たことが無く。異様に映ったらしい。

子供の頃、大分県のボクの田舎では、ほとんどが農業で生計をたてていた。

農家の人が背広を着るのは、法事くらいだった。背広を着て出かけていると、他の人から「どげーしたんな県庁着なんか着ちから、どきー行くんな」といわれた。
ボクの田舎では、背広のことを県庁着といった。
県庁に行くとき、背広を着て行ったからとおもわれる。

営業マンのボクにとって、背広は、仕事着だ。
自分では、ネクタイが似合わないと今でも思っていないし、締めることが苦痛でもなかった。二日酔いのときでも、ネクタイをしめると体が、シャッキとしたものだ。

近頃 ネクタイを絞めると、首の辺りが苦しいと感じるようになってきた。
作務衣がボクの仕事着になる日が、近いのかもしれない。





■「どげーしたんな、県庁着なんか着ちから、どきー行くんな」
  (大分県のボクの田舎の言葉)
       「どうしたの、背広を着て、どこに行くの」






2007⁄08⁄29(Wed) 06:36   未分類 | Comment(4) | Trackback(0) | ↑Top
老犬ベルと若猫たま(第八十九話)


多摩川沿いにあるMAio108の工房近くに四 五軒の民家がある。一軒の民家の庭に、いつも犬と猫が身体を寄せ合って寝ている。

犬の名前はベル、年齢は十四歳。猫はタマ、年齢は二歳。

朝 工房に行く時、腰の曲がった太ったおばあちゃんとベルが散歩をしている。おばあちゃんは古い乳母車につかまりながらゆっくりゆっくり歩く。その前をベルがお尻を振りながら、ゆっくり ゆっくり振り返りながら歩く。
ベルは中型犬で毛が長く茶色の優しい顔をしている。

ボクは車を止めて、二人が行き過ぎるのを待つ。

タマは、多摩川沿いに住みついている野良猫がベルの小屋に産み落として行った。母ネコは少しだけ赤ちゃんネコの面倒をみたが他のオスネコについて出て行った。残された子猫をベルが自分のお腹に包んで育てた。数匹いたがタマだけ育った。
タマは母親がノラだけに人相が悪い。ネコ好きのボクが呼んでも近づいてこない。

仲の悪い例えとして、犬猿の仲という。英語では、like cat and dogだ。

犬や猿は元々集団で生活している。犬は人間の近くで生活し、猿は山奥で生活している。どちらも縄張り意識の強い動物。どちらかの縄張りの中に入り込むと争いが起こる。

猫も縄張りをもつ。オシッコをかけたり、爪を研いだりしてマーキングし敵の侵入を防ぐ。領域に侵入していくと争いが起こる。

犬と猿、犬と猫の仲の悪さは、縄張り争いでない説もある。
お互い知らない相手だからケンカをする。犬と猿も犬と猫も小さい頃から一緒に育てると特に警戒心を持たず、仲良く生活する。
生みの親より育ての親という。血よりも信頼関係の方が上なのだろう。タマがそのことを一番良く知っているのかもしれない。

縄張り争いの究極が戦争である。思想の縄張り、領土の縄張り、民族(種)の縄張り。いつの時代になっても終わらない。
争いの原因で共通していることは「全部自分が正しい。全部相手が悪い」である。

人相のよい老犬 ベルがいう。
「人間はもう少しお互いに分かち合えばよいのにね」

人相の悪い若猫 タマがいう。
「人間が一番 駄目ニャン」


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2007⁄08⁄22(Wed) 06:09   未分類 | Comment(0) | Trackback(0) | ↑Top
吉丸コンピュータークリニック(第八十八話)


吉丸太一は夏の空を見上げて「空は青い、雲は白い」とつぶやいた。蝉の鳴き声が耳にジージージーと響いた。風がさわやかだ。胸いっぱい呼吸をした。
退職して良かったと思った。

昨年の春、吉丸は十八年勤めた特定郵便局長を退職した。郵便局長の仕事が嫌ではなかった。地域の住民と密着した生活に満足していた。貯金や振込みなど本来の業務以外に、おじいちゃんや、おばあちゃんの相談役としても頼られる存在だった。

郵便局長や職員の仲間からは、パソコンの修理や使い方についての相談役として頼りにされていた。

周りからは羨ましいと思われた職場環境も、吉丸には不満があった。どうしても馴染めない公務員体質があった。決められた事以外には手を出さない。口を出さない。失敗はできない。

吉丸はボクが熊本で勤務していたとき、親会社の社員として入社してきた。
新入社員の時から頭がよく、気働きのできる社員だった。担当していた病院が同じこともあり、よく一緒に仕事をした。
先輩のボクの方が、助けてもらう事が多かった。

仕事も出来るが趣味も多く、一つひとつに深かった。当時 流行り始めたカラオケでの歌はプロ顔負けの美声だった。ボーカルだけでなくギター、ピアノと楽器も弾けた。

熊本から鹿児島に転勤になった。ボクもその一年後に鹿児島勤務になり再び、世話になった。

製薬会社のトップ営業マンとして地位を築いた八年後、突然退職すると言い出した。郵便局長になると言う。

周りの皆も、いきなり郵便局長は無理だろうと思った。郵便局員として勤務した経験もいるだろうし、試験もあるだろう。
本人は数年前から準備を進めたらしく、涼しい顔で郵便局長になった。

小泉純一郎首相の郵政民営化が実現しそうになったとき、ボクは吉丸太一にとって良い風だとおもった。民営化になれば、吉丸の力が今以上に発揮できるとおもった。

「よかったね」と電話を入れると吉丸は郵便局長を退職して、好きなパソコンの会社をやるという。耳を疑った。順調にいっている郵便局を辞めるという。まだ定年まで五六年ある、何故だとおもった。

昨年の暮れ、元旦配達のギリギリになり、年賀状書きを始めた。パソコンを始めて葉書の宛名書きは、宛名書きソフトの「筆ぐるめ」でやっている。百五十枚が一時間もあれば出来上がる。その時 なぜか印刷ができない。あわてて吉丸コンピュータークリニックに電話をした。

電話の向こうから遠隔操作により、復活できた。

吉丸は「どうしょう花さんパソコンの基本が分かってないね。今度 上京したとき、教えます」という。

ボクは車の運転を四十年前からやっているが修理も出来ないし、車がどうして動くかもしらない。
パソコンも十年前からやっている。基本は分からないが、動かし方が分かれば良いのだと考えている。縄文人のボクにそれ以上のことは無理なのだ。

世の中には、ボクのような人間が沢山いて、吉丸コンピュータークリニックは、そこそこ 繁盛している。


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2007⁄08⁄15(Wed) 05:53   未分類 | Comment(4) | Trackback(0) | ↑Top
出版記念飲み会(第八十七話)


四月一日に「窓際のロクロ挽き」を出版した。
「医師の死角、患者の死角」の著者である西寺桂子さんから「出版記念パーティをやりましょう」と声がかかった。
ボクの本は自費出版なのでとお断りした。西寺さんから「自費出版でも記念になるからやりましょう。私が幹事をしますから」と勧められた。

籠に乗る人、担ぐ人、そのまた草鞋を作る人という諺がある。

ボクは今までかごで担がれたことがほとんどない。担がれても居心地が悪い。すぐに足をだして担いでいる人の加勢をしてしまう。担いでいる人は担ぎにくく迷惑である。担ぐ方は得意だが、担がれるのが不得手なのだ。

ボクは「担がれるのは苦手なので皆で楽しむ出版記念飲み会にしましょう。ボクが肴で」と提案した。
西寺さんから「それはよい考えだ。豊洲の安庵でやりましょう」とすぐに話がまとまった。

元の会社(合併前)の上司と同僚 七名、カミサンとボクの計九人で始まった。

司会を入社したときの上司 市川皓造さんに頼んだ。

市川さんはアップジョン時代の社内報「UPJOHNMAN」1984年4月号保存版を持参してくれた。
タイトルには、日本アップジョン株式会社創立25周年記念特集号 七百六十一人の記録 
とあり、
1.あなたが自分の仕事の中で、いま取り組んでいることは:
2.あなた自身のためのPR:
というアンケートに基づいて、全社員が紹介されていた。
ひとり一人のあいさつの時、二十三年前の自己申告記事を司会者が紹介した。

今夜の主役である肴のボクより昔話に花が咲き、盛り上がった会になった。

いつもはボクの作った器に厳しい評価をする安庵の板前 小笠原さんも「少し重いけど」と文句を言いながら、「どうしょう花」作の大皿に刺身の盛り合わせを出してくれた。

ボクも皆から「出版おめでとうございます」「窓際のロクロ挽き 面白かったよ。一気に読んだ」「器もすごいね」と褒められた。何だか不得手な かごの上も気持が良いナーと調子に乗って呑みすぎた。最後にお礼の挨拶をしたが何を話したか覚えていない。

午後六時に始まった会が、十時になっていた。お開きになる頃には皆も上機嫌で散会した。

帰りの電車の中でアルコールを一滴も飲めないカミサンも上機嫌だった。
ボクが酔っ払っている間に皆からボクのことを聞いたそうだ。
チョコットしかないボクの良いところを先輩達が沢山持ち上げてほめてくれたらしい。

次の日から晩酌の肴が一品増えた。

次は陶芸の公募展に入選して籠に乗るぞ。






2007⁄08⁄08(Wed) 06:24   未分類 | Comment(2) | Trackback(0) | ↑Top
人前結婚式(第八十六話)


七月中旬 店舗の設計 施工の会社MAio108 鉄工部門の大森太良ちゃんの結婚式に出席した。
結婚式場は小金井市にあるレストランTERAKOYAだ。雨にぬれた庭園がきれいなレストランだった。

挙式から参加してくれといわれ開始の十一時三十分まえに会場に入った。会場には既に多くの参列者が集まっていた。

会場に入ると向かい合わせのテーブルが八列並んでいた。椅子は向かい合わせでなく、庭園のある窓に向かって並べられていた。窓のほうに祭壇があった。

式の始まる前に司会者から人前結婚式の説明があった。

最初に聴いたとき、ボクはジンメン結婚式って何だと思った。人面魚は聞いたことがあるが人面結婚式など聞いたことも見たこともない。新郎新婦が魚の格好で現れるのかと一瞬思った。司会者の話を良く聴くと人面でなく人前といっている。

人前結婚式とは、親族や友人、知人などの参列者を証人として行われる結婚式である。最近は、従来の宗教による儀式や昔からのしきたりにとらわれない、新しい形式での結婚式だそうだ。

新郎の義兄アヨーシ・バトエルデネの馬頭琴の演奏で新郎新婦が入場してきた。

祭壇に立った新郎新婦を司会者が紹介した。
続いて誓約と証人の儀が行われた。新郎新婦が誓約書を読み上げ、列席者全員で同意する。
新郎新婦で婚姻届に署名をする。誓いの言葉を朗読する。そして指輪の交換をした。チューの後、司会者の音頭で祝杯があり披露宴になった。

披露宴は主賓の挨拶から始まり友人のスピーチと続いた。
新郎の大森家は音楽に才能のある方が多く、生演奏による、お祝いの歌が演奏された。

新郎の従弟 小学生の大森廉くんのピアノ演奏で廉くんの父親が楽しき農夫を見事な歌声で披露した。廉くんの父親は若いころグリークラブで歌っていたそうでプロ並みの歌声だった。新郎の伯父になる。

新郎の従妹二人でクラリネットとピアノ演奏、新郎の義兄 アヨーン・バトエルデネさん家族によるバッハのロマンスが披露された。義兄の馬頭琴、姉のピアノ、姪の爽ちゃんのチェロと新郎の姉一家は音楽家族だ。
義兄のアヨン・バトエルデネさんは馬頭琴の有名なプロの演奏家だそうだ。

少し前まで披露宴が派手になった時期があった。大きなウエディングケーキ、キャンドルサービスはあたりまえで、ゴンドラから新郎新婦が登場したりした。
近頃は挙式も披露宴も独自のスタイルで行うカップルが増えた。

今回の結婚式は挙式から披露宴まで今まで列席した結婚式で経験したことのないスタイルだった。
すべて生の演奏で会場を盛り上げた。ウエディングケーキ入刀もキャンドルサービスもなかったが落ち着いた暖かい空気に包まれた結婚式だった。

アヨン・バトエルデネさんから親族のあいさつがあった。
モンゴルで雨の日に結婚した夫婦はお金持ちになると紹介があった。

新郎新婦の笑顔をみて、きっと幸せな家庭が築かれるだろうとボクは思った。






2007⁄08⁄01(Wed) 06:46   未分類 | Comment(2) | Trackback(0) | ↑Top

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プロフィール

Author:どうしょう花
サラリーマン生活が残り一年になりました。
宮崎での単身赴任時代に始めた陶芸が十年になります。
昨年 年末に窯を持ちプロとしての環境が整いました。
サラリーマン生活を悔いのないように全力でラストランしたいと思います。
週末は、陶工への道にむかい励みます。
還暦前の老人が悪戦苦闘している日々を「どうしょう花」がエッセイにして毎週水曜日に掲載致します



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