陶芸に関する悪戦苦陶の話
受身(第九十九話)


あっ と思った時、ボクは一メータ下に頭から落ちていた。

木の枝の間から秋の高く澄んだ空が見えた。そのまま仰向けに寝ていようかと思ったが、直ぐに立ち上がり周りをきょろきょろ見回した。誰にも見られていなかったことを確認した。
ボクが落ちた畑は、周りに民家がなく、人から見られる心配はないのだが、格好をつけることを忘れていない為、反射的に立ち上がったようだ。

大分の実家にある畑で作業をしていた。畑に植えてあるカボスの木から実をとっていたときの出来事である。
高いところの枝を引っ張り、枝から実を切り取った瞬間に枝が顔をすくめてメガネにあたった。一瞬 メガネが耳から外れたと思った。顔をさすったがメガネがない。落ちたメガネを足で踏まないように足を移動させず、辺りを探したが見つからなかった。

メガネが枝に飛ばされたようだ。畑の上の段に行き、飛ばされたと思われる草むらを棒で分けながら探した。
その時 前かがみに落ちたのだ。意外な事に落ちながらいろんなことが頭の中を駆け巡った。こんなところで落ちるとは、歳をとったな。顔から突っ込むぞ。怪我をしたらどうしょう。

ボクは、とっさに身体を丸めて肩から下に落ちていた。瞬間的に柔道の受身をしたのだ。全くどこにも痛みが無かった。

高校生の時、体育の必須科目で柔道の授業があった。ボクは、柔道が弱く投げられてばかりいた。その為 受身だけは、誰よりも上達した。
高校卒業後、一度も柔道をしたことがない。

藤沢周平の短編小説に「ど忘れ万六」がある。五十代で物忘れが始まり家督を倅に譲る。主人公は、倅や嫁の名前が出てこなくなる。
ある時 嫁に因縁をつけた若者に対して抗議をする。立ち合いの喧嘩になる。
若い頃、居合いの達人だった主人公は、相手が打ち込んだ剣を見事な剣さばきではねとばし、返す峰打ちで相手の脛を払った。

歳をとり、物忘れがひどくなっても運動神経の記憶は、しっかり しているもののようだ。
ボクもこの主人公のように物忘れがひどくなっているが運動神経は、大丈夫なようだ。

受身は、柔道の基本。受身とはころぶ練習、負ける練習、人前で恥をさらす練習と相田みつをは、書いている。

人の目を気にして直ぐ立ち上がったボクは、まだ受身の修行が足りないのかもしれない。

あの時 なりふりを忘れて、しばらく畑の中で横になって秋の空を眺めていれば良かった と 今 思う。






2007⁄10⁄31(Wed) 06:03   未分類 | Comment(0) | Trackback(0) | ↑Top
カボス(第九十八話)


秋を感じる味覚には、人其々 思い入れがある。秋の味覚は、秋刀魚、柿、リンゴ、ミカン、葡萄、梨、栗、さつまいも、もどり鰹、椎茸、松茸など上げたらきりがない。各地に特産の味覚がある。

ボクの秋の味覚は、何と言ってもカボスだ。毎年 お盆を過ぎるとそわそわしてくる。大分では、路地物のカボスが出荷され始める。しかし 八月のカボスは、まだ値段が高く手が出ない。路地物よりハウス物が多いせいなのだ。
九月に入ると大きいL玉が安くなる。毎年 大分の農協に電話して送ってもらう。

カボスは、水平面で二つに切る。まず 朝の味噌汁に絞って入れる。夕食には、秋刀魚を焼いてカボスをぶっ掛けて食べる。大根おろしにもカボスをかける。その他 焼き茄子、天ぷらなど何にでもかける。

カボスにはクエン酸をはじめ多くの有機酸が含まれている。クエン酸は、食酢に含まれる酢酸よりも三倍もの濃い内容を持ちながら、酸としての強さはわずか三分の一しかない。ぎゅっと絞りたてのカボスの中にほのかな甘みを含んだ爽快感。それがカボスの中のクエン酸なのだ。カボスに多く含まれるクエン酸には、天ぷら等の油物には味をやわらげ、苦味なども取り、鮮魚においては生臭さを消す効果、さらに胃液の分泌を正常にする作用がある。

カボスは、ビタミンCをたっぷり含んでいる。風邪を引き始めたとき、カボスのビタミンCが威力を発揮してくれる。ビタミンCは特にウイルス性の病気に効果があるといわれている。ビタミンCが不足すると、皮膚や粘膜の抵抗力が弱くなり風邪を引きやすく、病気になりやすい状態になる。
ボクは、夏場に不足したビタミンCをカボスで補給するのだ。

今年は、十月の初めに帰省する機会があった。ボクは、実家の畑に植えてある二本のカボスの木からコンテナ二配分収穫した。神様に三個残し、小さいのまで全てとった。

農協から取り寄せるカボスと違い、大きさがバラバラ。表面はガサガサと きれいでない。無農薬なのだ。ボクの子供の頃は、これが普通だった。虫が食べるくらいでないと美味しくないと教えられた。今の野菜は、すべてきれい過ぎる。

東京では、カボスよりスダチの知名度が高い。
スダチは、徳島県の特産で同じミカン科の植物だ。スダチは三十グラムから四十グラム、カボスは百グラムから百五十グラムで大きさが違う。味も同じような風味だがカボスの方が上品な感じがする。

しかし 料亭で使われているのは、スダチが多いらしい。徳島のスダチは、大都会の大阪に近く、早くから東京まで流通した思われる。カボスは、大分だけで食され県外に広まらなかった。

十年位前 カボスを贈った知人からこんなすっぱいミカンは食べられないと苦情をもらったことがある。

近頃 大分の一村一品運動からカボスの存在が知れ渡り始め、食べ方を説明しなくてよくなった。

安くて美味しく健康に良い秋の味覚 カボス。これ以上広まらずボクだけの楽しみにしておきたい気持ちもある。






2007⁄10⁄24(Wed) 06:33   未分類 | Comment(2) | Trackback(0) | ↑Top
ヒッピー陶芸家と麻布で再会(第九十七話)


今年のゴールデンウイークに益子で行われた陶器市のテント村で出会った陶芸家 小林白兵衛から展示会の案内をもらった。

港区麻布の展示場に入ると薄暗いギャラリーに、入り口から小林白兵衛の作品が並んでいる。テント村で観た同じ焼きしめだが大都会の瀟洒なギャラリーで、さらに大きなオーラーを放っていた。

今回展示している作品は、テント村で観た縦は八十センチの作品より、やや小ぶりだった。
穴窯で焼きしめられた茶色の肌に緑色のまばら模様が輝いている。
ギャラリーの照明に照らされて星空のような光を放している。

先客がいて小林は、話しをしていた。ボクの姿を見ると国籍不明の顔がニヤッと笑った。
小林のファッションは、チョンマゲに麻のシャツとズボン。麻のベストをゆったり、羽織っている

小林は、若い頃、インドを中心に世界各地で七年間ヒッピー生活をしていた。
小林のファッションは、無理に芸術家を装っているのでなく、ごく自然な感じでカッコいい。海外でのヒッピー生活から培ったファッションで、小林にとっては、普通の装いなのだろ。

広くないギャラリーで小林とお客さんの会話が耳に入った。
お客さんは、三十路を過ぎた婦人だった。旧知の仲ではなさそうだが、話の内容は、身の上相談をしている様子。

小林は、一つひとつ丁寧に応えていた。
ふらっと立ち寄ったギャラリーで小林から焼物の話を聞いているうちに、身の上相談になったと思われる。

小林には、不思議なオーラーがある。
ボクも益子のテント村で初めて会った日、将来 陶芸教室をやりたいことや現在抱えているロクロ成形の課題などを話した。
ボクより十歳若いのだが、自然に相談したくなるのが不思議だ。

小林は、三十歳を前に帰国した。特に陶芸に興味があったわけでなく、たまたま知人に紹介された古家が益子にあったので陶芸を始めた。陶芸は、誰にも師従せず土の練り方からロクロ成形、焼成まで自己流で習得した。

定年後、小林からやきしめを習いたいと思い、習いに行ってよいかと訊いた。小林は、「何でも自分でやるのが一番の早道だよ」と言った。

自分の工房を稲城に造ることを告げて麻布のギャラリー旬を後にした。


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2007⁄10⁄17(Wed) 06:36   未分類 | Comment(0) | Trackback(0) | ↑Top
子田さんの展示会(第九十六話)


子田さんから「大樹展 2007 7人の絵画展」の案内があり銀座に出かけた。
銀座 地球堂ギャラリーに入る。広くないギャラリーの壁にF50号(タテ910ミリ×1167ミリ)の大キャンパスに全裸の女性がドーンと描かれていた。
「あいまいな記憶1」と題名がついていた。
「あいまいな記憶2」は、F50号の縦のキャンパスに同じ女性が描かれていた。

「ここに描かれている女性は、一体誰なのだ」ボクは、豊満な女体を観て考え込んだ。タイトルの「あいまいな記憶」からも怪しいぞ。

画家とモデルの関係は、モデルが妻だったり恋人だったりする場合があると聞く。モナ・リザのモデルは、作者レオナルド・ダ・ヴィンチの友人の妻でレオナルド・ダ・ヴィンチが密かに想いを寄せていたと言う説かある。

邪まなことを考えながら他の人の作品を観た。

他の絵にも同じモデルを描いたと思われる作品がいくつかあるのを発見した。ボクは、邪まな考えから開放されてゆっくり鑑賞した。

「ナオコの夏」F6号(タテ410ミリ×318ミリ)は、子田さんの二番目のお嬢さんを描いた作品。F6号の小さなキャンパスに はちきれそうな健康美の若い顔が描かれていた。

「花」F10号(タテ530ミリ×455ミリ)は、我家のリビングに飾りたいと思った。

「風の吹く坂道」F20号(タテ727ミリ×606ミリ)と「海が見える坂道」F20号(タテ727ミリ×606ミリ)は、広島県尾道で行われた公募展に応募した作品だ。
尾道の公募展は、二年に一回行われる。今年が十二回目。
今回1057点の応募があり、「風の吹く坂道」と「海が見える坂道」が入選した。二月に尾道で展覧会が行われ、商店街に展示された。
絵の前に立つと気持ちの良い風を感じる素晴らしい作品だ。

子田さんは、ボクと同じ会社の宣伝部でグラフィックデザイナーをしていた。2003年からフリーのデザイナーとして独立した。

パンフレットやチラシ、ポスターなどのデザイン、ブックデザイン、シンボルマークを作成している。
今まで「病院が、変わり始めた」(照林社)、「さよなら、おっぱい」(小学館)、「DTCマーケってキング」(日本評論社)のブックデザインおよび紙面のレイアウトなどを担当した。

ギャラリーを出て、近くのやきとり屋で子田さんの話を聞いた。
子田さんは、「尾道の公募展の一等賞金は二百万円で、二等が百万円だった。一等賞を取り、尾道に行く予定だったのだが、入選で展示だけだったので尾道にいかなかった。残念」と悔しそうに言った。

ボクは、陶芸の公募展に何度か応募しているが一度も入選したことがない。ボクだったら入選して展示されていれば、どこまでも飛んで行くところだ。


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2007⁄10⁄10(Wed) 06:17   未分類 | Comment(0) | Trackback(0) | ↑Top
茄子「ナス」(第九十五話)


今年の夏は、工房の引越しなどでゆっくり休みが取れなかった。
八月の終わりに四日間 大分の故郷で過ごした。

郵便局員から農業に転職した先輩 和さんのお宅へ手土産をぶら下げて伺った。居間で先輩の栽培したキュウリ、茄子、カボチャなどを肴にお酒を呑んだ。

一年のうち 三月 四月は、椎茸の収穫、七月から十月は、茄子の収穫で一番忙しい。特に八月 九月の茄子は、毎日まいにち、どこをとったか分からないくらい次から次に生(な)るそうだ。

お酒を呑んで気持ちが良くなった勢いで、「明日茄子の穫り入れを手伝いましょう」と言ってしまった。
朝 六時に茄子畑に行くと和さんは、すでに奥さんと二人で作業していた。和さんが木からナスをハサミで切りとる。ボクは、一輪車の上に乗せた青い箱に切りとったナスを入れる。

子供の頃、畑で栽培していた茄子の茎は、膝から下くらいの高さだった。
和さんの茄子畑は、茎の高さが1m50cmくらいある。ボクが少し屈んで通れる。紫色見事な茄子がぎっしりぶら下がっていた。

四十年前 東京で生活を始めた時、スーパーで大根が三つに切られて売っていた。東京は、随分 せこい町だと思った。茄子も九州で食べていたものより三分の一くらい小さいのでこれにも驚いた。
反対に福島県育ちのカミサンは、結婚して九州に来て茄子の長くて大きいのに驚いた。

茄子の種類は、形を大きく分けて長卵形茄子、卵形茄子、丸茄子、長茄子、大長茄子に分けられる。他に米茄子、小丸茄子などがある。

九州では、長茄子と大長茄子が栽培される。東北地方の宮城県、岩手県、秋田県にも長茄子がある。豊臣秀吉の朝鮮出兵に加わった伊達藩が北九州から持ち込んだと言われている。

茄子は、93%から95%が水分で栄養価は、ほとんどないと言われていた。
茄子の艶やかな紫色の色素にナスニンというコレステロールを下げ、動脈硬化を予防する成分が分かってきた。皮や実にもポリフェボールという成分があり、抗がん剤作用や老化防止に効果がある。昔から言われていた身体を冷やす作用は、ソラニンという成分である。
茄子は、汗をかいた後のミネラルバランスをとるカリウムも豊富でナトリュームとのバランスをとり、塩分の取り過ぎを防ぐ。

初夢の縁起の良いものとして、一富士、二鷹、三茄子とある。何故三番目が茄子なのか諸説あるそうだ。

ボクは、今まで夢に富士も鷹も茄子も見たことがない。
来年の初夢に、もしかして茄子が出てくるかもしれない。
和さんから貰った茄子を焼き茄子にして、ビールを呑みながら思った。


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2007⁄10⁄03(Wed) 06:27   未分類 | Comment(0) | Trackback(0) | ↑Top

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プロフィール

Author:どうしょう花
サラリーマン生活が残り一年になりました。
宮崎での単身赴任時代に始めた陶芸が十年になります。
昨年 年末に窯を持ちプロとしての環境が整いました。
サラリーマン生活を悔いのないように全力でラストランしたいと思います。
週末は、陶工への道にむかい励みます。
還暦前の老人が悪戦苦闘している日々を「どうしょう花」がエッセイにして毎週水曜日に掲載致します



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