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安東道正

Author:安東道正
サラリーマンのときに綴ったエッセイ「窓際のロクロ挽き」と「窓際の陶芸家」,定年後に綴った自伝小説「陶芸家弓さん」は本になりました。陶芸クラブいなぎで1冊500円で発売中。
自伝小説「つりあがりもん」に続き「悪戦苦陶、陶芸家ロクさん」を掲載します。
陶芸クラブいなぎ
http://inagitgc.html.xdomain.jp/

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夏休み子ども陶芸教室「シングルマザー」 

 今年の夏は、梅雨のないままやって来て容赦なく六さんの工房を暖めた。六さんは東の窓に簾をかけ、窓を全開にし、3つの扇風機を全開にするが効果が上がらない。メンバーさん達もうだる工房よりスーパーやデパートの方に行ってしまうので六さんは暇だ。六さんも近くのホームセンターでブラブラしたいのだが教室を空けるわけにいかず足元に扇風機をあて首に氷を巻いてじっとメンバーさんを待っている。

 学校が夏休みになると六さんの工房では夏休み子ども陶芸教室を開講する。六さんは学校で学べない体験をさせたくって色々なカリキュラムを準備する。やきものの歴史、種類、道具、モノづくりの工夫など細かく子どもたちが興味を抱くように進める。作業に入るとできるだけ口を挟まず、子どもの自主性を発揮できる環境にする。親と一緒に来た場合は、親御さんにも一緒に作陶をするように勧める。見ていたいと言う場合は、できるだけファミリーレストランか買い物をしてくるように言う。親が参観していると子どもは親に頼ってしまう傾向にあるからだ。口出しする親までいるので六さんはいつも「困ったもんだ」と呟く。

 おばあちゃんと母親が付いてきた、小学生が作陶した。六さんは心の中で「シッシッ」と言いながら道具の説明をした。先のとがった道具を示し「これ何」、弓の型をした道具を示し「これ何」と質問していく。職業によって道具の呼び方があることを説明する。そして「お父さんの仕事は何」と訊くと困った顔をした。横からおばあちゃんが「いないんです」と言う。68歳の六さんは少しも慌てず「お母さんの仕事は」と訊き直す。子どもはお母さんの顔を見ながら「薬局に勤めています」と言う。六さんは病院や薬局でもその仕事の道具の呼び方があることを伝えた。陶芸で先のとがった道具は「針」、弓の型をした道具は「弓」と教えた。カレー皿とハート型の小皿を作り終えた小学生はおばあちゃんとお母さんの三人で帰って行った。

 三人が帰った後、六さんは冷や汗をぬぐった。「いやいや、近頃はシングルマザーの多いいこと。話には聞いていたが気をつけにゃいかん」と窓の外を見た。

 六さんは子どものことが気になってシングルマザーの実態をネットで調べた。全国で108万人のシングルマザーがいる。人口一億人の内、女性が半分として50人に一人。子育て年齢になるともっと多くなる。貧困も問題になっているようだが全部が全部母子世帯でない。三世帯同居が多いというデーターもあった。そして気になるのが一度も結婚していないシングルマザーが増え続けているというのだ。六さんが子どもの頃は、母子家庭は少なかった。父親との死別がほとんどであった。

現在は便利な時代になって衣食住に困ることがなくなった。母子家庭であろうが父子家庭であろうが生活していける時代なんだろう。昔堅気の六さんは呟く「やっぱり子育ては父親と母親の共同作業がよいんじゃが!しかし、今日の子どもは明るい笑顔で父親のいない悲壮感はなかった。時代が変わったんじゃな」

六さんは次の日から道具の説明するときお父さんの仕事はと訊かないようにした。「センセイが学生の頃、アルバイトで道路工事をしたことがある。道路工事では小石のことを『グリ』と呼ぶんだよ」と職業別に呼び方があることを教える。大人になって仕事に着いたとき、言葉を覚えることから始まると説明する。

茶碗を作らせて代金をいただくだけでよいんじゃないかと思うのだが世話やきの六さんは、すこしでも世の中のためにと今日も頑張っている。

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[2017/07/29 21:16] 未分類 | トラックバック(-) | CM(0)

村芝居の稽古 

 六さんは陶芸教室を開業して来年10年目を迎える。地域にも六陶芸教室の名前が知られ、細々と続いている。毎朝、六さんはトイレの掃除から始める。トイレ、工房の掃き掃除と欠かさず行っている。掃除が終わるとロクロに向かう。ロクロを挽きながら工房の前にある梅林の景色を眺める。梅林は緑に覆われ、蝉がせわしく鳴き始めた。

汗を流しながらロクロを挽いていると芝居仲間のアッちゃんが「六さん、7月16日の稽古は祭りで出来ないよ」と言ってきた。六さんは「そうか上神殿の祭りだったなあ」と腕組みをした。六さんは今年村芝居「アオイ座」の座長を任された。六さんはアオイ座の団員になって5年。六さんは元々芝居が好きなのと稽古熱心で稽古を休んだことがないのが団員に認められて抜擢された。大張り切りだが悩みもある。メンバーが高齢のため台詞が覚えられない。稽古日を忘れるメンバーが多い。1月から毎月1回稽古が始まっているが、全員そろった例がない。もともと集まって一杯やりたいメンバーなので参加が少ないと稽古を早々と切り上げて酒盛りになる。六さんも酒盛りの魅力に引き込まれた一人なので文句が言えない。

 アオイ座の本番は、青渭神社の例大祭で行われる奉納芸能だ。例大祭は10月1日、残りの稽古日を数えると7月8月9月の三回しかない。7月の稽古が酒盛りになると芝居が成り立たなくなる。六さんは「翌日が、月曜日だが祭日なのでどうだろう」とアッちゃんに提案した。アッちゃんは「いいんじゃない」と笑った。去年まで座長をしていたミーちゃんに連絡すると夕方7時なら良いと言う。いつもは5時開始なので六さんは少し心配が走った。

 連絡網を使っての練達だが毎回うまく行かない。連絡網が機能せず、ほぼ毎回全員に六さんは自分で電話をしている。

 17日の午後5時にノリさんから「まだ誰も来てない」と連絡があった。六さんは「今回は7時から」と言った。少しすると年長のマーさんから「誰もきてないんだがどうなってる」と電話があった。そして六さんより年下のサクちゃんから「少し遅れる」と電話があった。六さんは「7時から」を「17時から」と言ったんじゃないかと心配になってきた。受けるほうに問題があったのか、配信した六さんに問題があったのかは不明である。古希が近い六さんも団員の物忘れより自分のことが心配になってきているこの頃だ。

 今年の出し物は「なんちゃって暴れん坊将軍」。「暴れん坊将軍」は昭和53年から平成14年にかけてテレビ朝日で放映された時代劇。ストーリーは江戸幕府八代将軍、徳川吉宗が町火消「め組」に居候する貧乏旗本の三男坊、徳川新之助に姿を変え、江戸町人と交流しながら世にはびこる悪を成敗する勧善懲悪劇。アオイ座では、主人公の新之助は身体の大きなノリさん、医師は演技の上手なタカさん、医師の奥さん、おりんはアオイ座一の役者サクちゃん、悪代官は我らの看板役者ミーちゃん、悪商人加賀屋はアオイ座一のお笑い芸達者アッちゃん。今年は家族が亡くなって出演できなくなった団員がいて六さんは急遽、代役の大工頭になった。座長と頭の二役だ。団員の手前、座長は台詞が完璧でなくてはならない。大工の頭役は台詞が多いわけでないが、なかなか台本なして台詞が出てこない。

午後7時、団員の集まりが少ないんじゃないかと心配していたがほぼ全員集まった。六さんは胸をなでおろし団員に向かって「いよいよ残り3回となりました。今日は台本を見ないで稽古してください」と言った。稽古が始まったが全員台本から目を離す団員はいなかった。毎年この時期、台詞が覚えられるか心配しているが本番になると全員それなりに台詞を覚えてくる。アドリブのオンパレードなのだが観客から評判がよい。初座長の六さんは、まず台詞を覚えてからアドリブをと、団員に求めている。なかなか六さんの思いどおりにならない。


[2017/07/21 20:49] 未分類 | トラックバック(-) | CM(0)