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安東道正

Author:安東道正
サラリーマンのときに綴ったエッセイ「窓際のロクロ挽き」と「窓際の陶芸家」,定年後に綴った自伝小説「陶芸家弓さん」は本になりました。陶芸クラブいなぎで1冊500円で発売中。
自伝小説「つりあがりもん」に続き「悪戦苦陶、陶芸家ロクさん」を掲載します。
陶芸クラブいなぎ
http://inagitgc.html.xdomain.jp/

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盆踊り 

 七月の暑さが嘘のように八月に入って涼しくなった。天候が不順になり、雨の日が多い。例年、六さんの工房は七月八月暇になる。七月は例年どおり暇だったが八月に入って涼しくなると何を思ったかメンバーさんが作陶に励み始めた。電動ロクロを始めたメンバーさんが5人いて六さんは大忙しだ。六さんが「こんなに忙しいとそのうち蔵が立つな」と呟くと、古いメンバーさんが笑いながら右手を左右に振り「ないない」と言った。

 盆踊りの稽古が始まった。毎年、8月2日から4日まで青渭神社の境内で行われる。六さんは2日に別の用事で参加できず3、4日参加した。工房が忙しく休み休みの稽古だったが稽古打ち上げの時だけは元気だった。

 六さんの住む町の盆踊りは38年前に「みなみ会」という名称で立ち上げられた。立ち上げは、青年団が中心になった。その時、中心メンバーだったヨシさんは昨年まで自転車の交通整理など裏方で働いた。六さんは、「もう充分裏方はやられたので、輪の中に入った方が良いのでは」と誘った。

 台風の影響で一日順延になり8,9日に第三小学校の校庭で開催された。六さんはみなみ会の浴衣を押入れから引っ張り出し帯を締めようとした。昨年完全にマスターした帯の締め方ができないのである。ネットで帯の締め方、見ながら締めるのだがなかなかうまく行かない。四苦八苦して締め、下駄を突っかけ、お茶のペットボトルに冷やした日本酒と六さん作ぐい呑み6個をぶら下げて会場に向かった。会場に近づくと聞きなれた六・三の太鼓が聞こえてきた。ドン、タカタカタカ、ドンドンドン、タカタカタカタカタカタカ、ドンの繰り返しだ。

 昨年、シゲさんに誘われて櫓太鼓の稽古をしたがマスターできなかった。少し残念だったが櫓太鼓はあきらめた。少し挫折感は残っているがここは割り切りの良い六さん。すっかり踊りと飲み方専門で参加すると決める。

 会場に着くとみなみ会のメンバーとお茶のペットボトルに入った日本酒を六さんのぐい呑みで飲み始めた。ヨシさんも今年は粋な浴衣で会場に現れた。程よく気持ちが良くなったところで踊りの輪に入った。東京音頭、大東京音頭、まんまる音頭、稲城繁盛節、稲木梨唄、あいのまち稲城、炭坑節など一通り踊るとテントに戻ってビールを飲んだ。ビールを飲んでいると陶芸教室の作品を買ってくれる若い女性が子供の手を引いて「センセイ」と六さんに声を掛けた。六さんは「踊らないんですか」と言うともぞもぞと下を向いた。

 六さんは盆踊りについて踊りの輪を見ながら低い声で「お盆はネ、先祖の魂が一年に一度帰ってくる行事。帰ってきたご先祖に、感謝を込めて、ご先祖様のお陰で今、こんなに平和で楽しく踊っています。と見ていただくための踊りなんだ。下手でもよいから楽しそうに踊ればよいんだよ」と語った。

 櫓の上に市長も加わり、六さんも入れてもらった。模範踊手の項(うなじ)から汗がひかり、踊りは例年どおり盛り上がった。六さんが櫓の上から輪を見ると先程の若い女性が小さな子どもの手をひいて踊っていた。

 シゲさん、カトさん、トシさん、ヒトさんの叩く太鼓が会場に響き渡った。

 「ドン、タカタカタカ、ドンドンドン、タカタカタカタカタカタカ、ドン」

 六さんは三年前に亡くなった母、14年前に亡くなった父を思いだしながら一生懸命に踊った。

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[2017/08/18 14:50] 未分類 | トラックバック(-) | CM(0)