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安東道正

Author:安東道正
サラリーマンのときに綴ったエッセイ「窓際のロクロ挽き」と「窓際の陶芸家」,定年後に綴った自伝小説「陶芸家弓さん」は本になりました。陶芸クラブいなぎで1冊500円で発売中。
自伝小説「つりあがりもん」に続き「悪戦苦陶、陶芸家ロクさん」を掲載します。
陶芸クラブいなぎ
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オレ、芸術家じゃないんだけど 

  六さんの住む町、稲城市は、秋の大きな祭りとして「あいのまち市民祭」がある。今年16回になる。あいのまち市民祭の一部門に稲城市芸術祭があり、5年前から六さんは参加している。芸術祭の出展には60歳までサラリーマンをしていた六さん、毎年出展に気が引ける。この時期になると六さん「文化祭の参加ならともかく芸術祭の参加はなあ。オレ、芸術家でないし、芸術作品作る自信もない」と胃が痛くなる。

 5年前、芸文連の副会長から参加の要請があり六さんは驚いてお断りした。副会長は工房の隅にあった高さ60cm、幅50cmの花器を指さし「これ、出してください」と言った。六さんは大きいだけで芸術性のない花器を渋々出展した。大きな花器が二つ並んだ作品を見て来場者は驚いた。六さんへの質問は異口同音に「こんな大きな花器を焼ける窯はどこにあるのですか」だった。芸術性に関する感想は一人もいなかった。次の年から大壺、オブジェ、花器を展示し続けているが未だに恥ずかしい。

 昨年からディスプレイを芸術家の友人に依頼している。友人の仕事はグラフィックデザイナー、絵描きでもある。「六さん、オレこんなの大好きよ」と言って気持ちよく引き受けてくれる。友人と言っても六さん、専門家に依頼するのだ、とても気が引けている。

 夏頃、作品が出来上がり見に来てくれた。芸術家は「六さん、ススキがあったらよいね」という。ススキは芸術祭の会場になる体育館の周辺に大群がある。毎年臨時の駐車場を作るためススキを刈り取る。例年、準備会の前日刈り取り作業がある。前日、ススキをもらいに行くと臨時の駐車場が出来上がっていた。六さんは「やられた、今年は何故か準備が早かったようじゃ」と地団駄を踏んだ。六さんは芸術家に「ススキは無理、藁だったある」と電話を入れた。芸術家は「しかたがない、藁で行きましょう」と承諾してくれた。

 

 今年の芸術祭には、全国的に名前の知れている芸術家の出展があった。伊東正次先生は稲城市在住の日本画家。2013年、2016年の日展で特選に選ばれた芸術家。今回、特別展として襖絵「滝桜図」を出展した。池田秀俊先生は木彫の一人者、毎年国展に出展している。その他、日展の入選作家や大きな公募展で受賞した写真家など作品が並ぶ。

 

 六さんは、所属する芸文連が主催しているため自分の作品は隅の方へ心がけているのだが大きさだけが大作なので会場で目立ってしまう。

 今年も来場者から「大きいですね、こんな大きな作品を焼く窯、何処にあるんですか」と訊かれて六さん「いっその事、オレも焼かれてここに展示してもらいたいわ」と呟いた。

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[2017/11/24 14:45] 未分類 | トラックバック(-) | CM(0)

台風21号接近、大丈夫か! 第16回あいのまち市民祭 

 六さんは、自分で何のとりえもないけど晴れ男にだけは自信がある。六月に行う六さんの教室の展示会だって梅雨と言うのに過去8回土砂降りになったことがない。

 第16回あいのまち市民祭の第1回実行委員会が5月末、開催された。各部門から選出された委員から推薦され第16回の会長に六さんは就任した。就任の挨拶で六さんは胸を張って「私は晴れ男なので、天気は大丈夫です」と言った。事務局と実行委員たちは、みんなほっとした顔をした。今までの市民祭で2度雨のため中止になったことがあった。

 あいのまち市民祭は、ふれあいまつり部門、産業まつり部門、ファミリースポーツフェスタ部門、交通安全市民のつどい部門、市民文化祭・芸術祭部門からなっている。平成13年にそれぞれの祭りを統合させて総合グランドと体育館で行う祭りにした。市内で一番大きな祭りだ。町の半分以上の人がここに集まってくる一大イベントである。祭り好きの六さんにとってこれ以上にないシチュエーションだ。

 一週間前の週間天気予報で、台風が発生したとニュースを見た実行委員会の皆は心配した。六さん何の根拠もなく「大丈夫、ボクが会長なので台風はこない」と言った。「ノー天気」とは六さんのような人を言うんだろう。周りの人は心配しながら呟いた。ノー天気の六さんも二日前の天気予報を見て青くなった。「こりゃーいかんぞ、直撃じゃ!」と思いながら気を取り戻して「大丈夫、雨は降るが微妙にそれるはずだ」とますます根拠のない自信で自分を鼓舞した。

 雨の中でオープニングセレモニーが開催された。風はそれほど強くなかったが雨は降り続いた。仮設の大きな舞台には市長はじめ町の重鎮が列席した。せっかくのセレモニーも雨のため関係者だけになってしまった。

 初日は何とか各イベントを実施したが雨は降り続き、途中でテントをたたむイベントもでてきた。お昼に実行委員会の役員があつまり中止を検討した。各部門の状況を訊き、六さんは、二日目の野外でのイベントを全て中止の決定をした。野菜などを販売する食べ物を扱ったイベントがあり重い決断に六さんの顔が引きつった。姉妹都市、友好都市のブースでは、大量の野菜が残ってしまった。六さんは今まで買ったこともないジャガイモの男爵と玉ねぎを購入して雨の中とぼとぼと会場を後にした。

 最終日、六さんの所属する芸文連が主催している文化祭と芸術祭は開催した。外は猛烈な嵐になった。朝から六さんは片付けの心配が始まった。展示物の大きな作品が風に飛ばされけが人がでたらどうしょう!片付けが出来なくなったら借りている体育館に迷惑がかかる!次の日の撤去する業者に迷惑がかかる!出来たら3時までに終了して片づけを始めたいと六さんは思った。

 雨にもかかわらず来場者は次々に訪れた。一年間に楽しみにしてくれた市民の方に違いない。時間ごとに入って来る台風情報を見ながら最終時間まで開催した。

 六さんはクロージングセレモニーで「今年の市民祭はご来場者が少なく、来場記録は出なかったけれども事故もなく記憶に残るお祭りになりました」と挨拶をした。

 六さんは雨に中、テレビやラジオ、新聞で見たイベント会場での事故のニュースを思いだし、今回何事もなく良かったと会場の体育館から自宅に向かって歩いた。普段履かない革靴に雨がしみこみズルッズルッと音がした。

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[2017/11/11 21:52] 未分類 | トラックバック(-) | CM(0)

姉妹都市交流「稲城子どもミュージカル」 

 稲城こどもミュージカルは、平成5年10月31日東京都稲城市向陽台に旗揚げされた。子どもたちにミュージカルを体験してもらうのがきっかけだった。子役の養成でなく、子どもの情操教育を目的にした活動を続けている。入団のオーディションがなく歌やダンスの好きな子どもなら誰でも参加できる。経験豊富な講師陣を招き、一人ひとり能力に合わせて演技、歌、ダンスを指導する。

 商業目的でない劇団なので父兄たちが一緒になってミュージカルを作り上げていく。出来上がった時の感動を分かち合い家族が一団となって作り上げることによる絆の深まりもこの劇団の魅力だ。この魅力が全国に広まり今、北海道から九州まで24カ所に姉妹劇団が出来た。

 大空町の文団協、前会長のカワニシさんは、子どもミュージカル公演の計画にあたり、札幌まで足を運んだ。札幌公演を見たカワニシさんは感動して、これなら大空町の町民が納得すると確信を得たという。

 

 38年間、会社員一筋の六さんは、オペラもミュージカルも観たことがなかった。全く縁のない世界だったが5年前、稲城市芸術文化団体連合会の理事になりいろいろなイベントを手伝うようになり観る機会ができた。

 パリの上流階級の娯楽であったオペラが庶民でも楽しめるオペレッタになり、アメリカに入ってミュージカルが誕生した。オペラはクラシック音楽に対してミュージカルはポップスからジャズ、ロック、民族音楽まで幅広く自由に使える。オペラもミュージカルも観る度に六さんは感動する。そして「もう少し若いときに観ておけば良かった」と思う。

 

 10月8日午後2時、大空町教育文化会館の幕が上がった。「ピエロ人形の詩(うた)」の公演である。ひとりぼっちで貧しい少女ナナが主人公。ナナはひねくれもので、喧嘩ばかりしている、嫌われ者だ。少女ナナはピエロ人形に出会い不思議な体験をしながらよい子になっていく。六さんは、ハンカチで目頭をぬぐった。

 

 公演の後、六さんは演出家の青砥 洋さんとお茶をした。青砥さんは劇団員一人ひとりの個性をほめた。指導者としてあるべき姿を六さんは見た。子どもや父兄に信頼され全国に広がっているのだと感じた。

 

 公演の翌日は、知床観光が予定されていた。ホテルの前に集合した子どもたちは、記念撮影のためか整列している。六さんが見ていると何やら台詞を言っている。記念撮影でなく次の公演の稽古をしているという。

 大空町が用意してくれた大型のスクールバスでも騒ぐ子供がいなかった。知床から大空町に向かう45kmの直線道路で左前方から夕陽が差してきた。夕日を見た子どもたちは「ゆうやけの空」というミュージカルの歌を合唱し始めた。六さんの知らない歌だったが夕日よ、ありがとう。またあした。と言う歌詞だ。大空町の夕日が子どもたちの心に差し込み、天使の歌声が北海道の広い畑に響き渡った。

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[2017/11/02 21:31] 未分類 | トラックバック(-) | CM(0)