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安東道正

Author:安東道正
サラリーマンのときに綴ったエッセイ「窓際のロクロ挽き」と「窓際の陶芸家」,定年後に綴った自伝小説「陶芸家弓さん」は本になりました。陶芸クラブいなぎで1冊500円で発売中。
自伝小説「つりあがりもん」に続き「悪戦苦陶、陶芸家ロクさん」を掲載します。
陶芸クラブいなぎ
http://inagitgc.html.xdomain.jp/

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試練を越えたナメ吉は、スター「第十一回展示会」 

 六さんの工房は、今年の2月11年目に入った。毎年恒例の展示即売会は、今年も6月に計画された。六さんは展示会のご来場記念のぐい呑みをロクロ挽きしていた。ラジオで40歳から64歳のひきこもり状態の人が全国に61万にいると報じた。

 話を聞いて六さんは驚き、ロクロの手を止めた。「40歳から64歳と言うと人生で一番油が乗って稼ぎ頭じゃないか。一体全体、ひきこもって何をしていると言うのだ。働かなくて飯は食えているのか?家族は一体どうなっているんだ。ご近所の人は知っているのか」と幾つもの不思議が頭を巡った。

 展示会も11年目を迎えて「やきもの祭」とタイトルを代えて準備に追われた。5月と6月に7回の本焼きを行った。最後の酸化窯に招き猫「ナメ吉を」を窯入れして点火した。ナメ吉は高さが40cm、両手を広げ日本の足と尻尾で立っている。動物作家アオさんの力作だ。展示会に合わせて作陶に入ったのがゴールデンウイーク明けだった。アオさんはそれまで猫やアザラシ、ライオンなど次々に制作した。展示会用のナメ吉は製作途中から工房の視線を浴びた。でかくリアルなネコ顔がメンバーを惹きつけた。六さんのフェイスブックでもリアルタイムに掲載され仲間の注目を浴びた。

 素焼きから本焼きまでの工程を六さんはナメ吉との会話で伝えた。六さんは中高年のひきこもりが片時も頭から離れなかった。ナメ吉は「人生には試練がある。どんな人も平等に試練がある。試練は避けては通れない。試練を乗り越えてこそ人なのだ。ひきこもっては何の問題も解決しない。誰も救ってはくれない。一歩前に踏み出そうよ」と語った。

 

金曜日、出足好調にスタートし、土曜日は梅雨らしいシトシト雨になった。午前のフミ先生による野点も祭り仲間のターさんの協力でテントを二張建てたおかげで何とか乗り切った。午後強い雨になったが客足は衰えず六さんは老体に鞭打ちお客様の対応に走った。午後4時半から神山里梨(りり)さんのヴァイオリン演奏会が行われた。六さんは間近でヴァイオリンの演奏を聴いたのは初めてだった。澄んだ音が工房に響き渡り、半磁器の食器に共鳴した。

 演奏会の後、神山さんを囲んで懇親会が開催された。主催者の六さんは自称晴れ男、懇親会の頃には雨が上がりテントの中で宴会が始まった。懇親会には、祭りの仲間やご近所の方、議員さんなどいろいろな職業の方々が集まり話に花が咲いた。

 みんなが帰った後、片づけながら六さんは「近くにひきこもった人、ひきこもりそうな人がいたらナメ吉に会いに来てこのテントに集まった人たちと触れあったらいいのになー」と呟いた。

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[2019/06/26 21:23] 未分類 | トラックバック(-) | CM(0)

故郷を想い起こす旅「芸文連研修会」 

 六さんの所属する芸文連は、毎年理事の研修旅行がある。去年は熱海に一泊研修だった。今年は甲府市にある山梨県立美術館と文学館の見物が計画された。チャーターしたバスに乗り込み出発。理事の中に山歩きを趣味にしている人がいて遠くに見えるアルプス山脈をガイドをしてくれた。芸文連の理事は、多才な趣味をもった人が多い。職業でダンスの講師、絵画の講師、お花の師匠、お茶の師匠などは珍しくないが本職の他に着付けの先生や旅行、絵画、書道、エッセイ、音楽鑑賞、吹き矢などの趣味をもっている。二つだけでなく三つ四つと活動している人も珍しくない。六さんも陶芸教室の他に青渭神社の例大祭で法螺貝と篠笛を吹き、下手な歌まで歌う。八坂神社の例大祭では、神輿を担ぎ、奉納芸能では司会をし、歌手も務める。

 山梨県立美術館に着き、それぞれ自由に館内を回った。山梨県立美術館はミレーの美術館として有名だ。今回ミレーの本物の絵画が見られると期待した。ミレーはフランスの農家の長男として生まれた。ミレーの代表作は、「落穂拾い」「種をまく人」「箕をふるう人」「羊飼いの少女」など農民を描いた作品が多い。六さんも農家の出身なので非常に興味を抱いていたのだが館内の作品を見ていると画面が暗い作品が多く、段々暗い気持ちになってきた。ミレーは清貧の農民画家と評価されている。確かに農家の暮らしは外から見るより苦しい。六さんも父や母の仕事を見て後を継ごうと思ったことがなかった。ミレーの絵を見ながら子供の頃の村の風景を思い出した。しかし、ミレーの絵のように暗い気分はなかったように思える。生活が苦しい分、雨の後の風景が輝いて見えた。祭りや運動会、学芸会は村中が盛り上がり、笑顔が溢れた。ミレーの風景のような暗さばかりでなかった。

 山梨県立美術館には、ミレーの他、日本画の野口小蘋、近藤一路、望月春江など山梨ゆかり作家の作品も所蔵している。油彩画も山梨県出身の中丸清十郎や土屋義郎に加え富岡鉄斎、横山大観、小磯良平、藤田嗣治といった日本を代表する画家の作品も多く観られた。

 一足先に山梨県立美術館をでて、六さんは隣接する山梨県立文学館に入った。樋口一葉や芥川龍之介の資料が展示されていた。一葉の両親が甲府市出身で作品の中に山梨を舞台にした作品がある。

 観覧した後、みんなで近くの「甲州ほうとう小作」に行き、ほうとうを昼食に食べた。ほうとうは麺が平たく具も野菜たっぷり、みそで味付けした麺類だ。六さんは食べていて故郷大分県豊後大野市の団子汁を思い出した。子供の頃、母の作った団子汁を食べた。団子汁といっても汁に団子が入っているわけではない。小麦粉を団子状に丸め、少しねせた後、手で引き延ばしながら鍋に入れていく。手際よい母の手で作った団子汁は旨かった記憶がある。六さんの記憶だと肉が入っていなかった気がする。今食べているほうとにも肉が入っていない素朴な味がする。同じなのだ!九州と甲州は遠く離れた地域だが同じような料理があるもんだと思いながら六さんはバスに乗り込んだ。

 途中ワイナリーでワインを試飲した後、バスにゆられて東京に戻った。

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[2019/06/07 13:46] 未分類 | トラックバック(-) | CM(0)

お知らせ 

今週の「つりあがりもん」は休刊します!
[2019/06/02 21:05] 未分類 | トラックバック(-) | CM(0)