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安東道正

Author:安東道正
サラリーマンのときに綴ったエッセイ「窓際のロクロ挽き」と「窓際の陶芸家」,定年後に綴った自伝小説「陶芸家弓さん」は本になりました。陶芸クラブいなぎで1冊500円で発売中。
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「なぜ」から生まれた桃太郎 

 暑いあついと汗を拭いながら京王線の稲城駅から電車の乗ると冷たい空気が六さんの身体を包んだ。汗がひいたころ東府中駅につき府中の森芸術劇場ふるさとホールへ歩いて向かった。陽ざしが強く商店街の日陰を選んで歩くのだが汗がふきだした。蝉の声をやたら暑苦しく聞こえた。

 六さんは子どもたちが夏休みのこの時期に公演される稲城子どもミュージカルを楽しみにしている。今年の出し物は「桃太郎」。桃太郎と言えば6年前に青渭ざで公演した演目だ。六さんは入会して2年目の新人だったが声の大きさを買われ犬の役に抜擢された。犬役は台詞が多くなく六さんは目立つために「桃太郎さん桃太郎さん、お腰に付けたきび団子、一つ私に下さいな!」と言うセリフをミュージカル調に歌って観客に受けた。青いざの筋書きは物語に忠実で強い桃太郎が犬、猿、雉をお供に鬼を退治し、村から持ち去られた宝を取り返すものだった。

 午後2時、子どもミュージカル「桃太郎」幕が上がった。桃の花の衣装を着けた数人の妖精が踊り、妖精に包まれた桃から桃太郎が現れた。桃太郎は桃から生まれたことから村人に「化け物」として恐れられる。お爺さんお婆さんの優しさですくすくと育っていく。

 後半のクライマックス、鬼姫が率いる鬼ヶ島での戦いで鬼姫の苦悩が語られる。鬼一族も昔は村で生活していた。鬼一族には頭に角が生えていた。角があると言うわけから村人から疎外され、鬼ヶ島で生活することになる。島には木も草もないゴツゴツした岩の島、食べ物がなく時々村を襲って食料を手に入れた。桃太郎は鬼姫に語る。「ボクも桃から生まれた化け物としていじめられた。お爺さんお婆さんから化け物なんかではないよと優しく育てられた。鬼姫さまも角があるからと言って元々鬼ではないはずです」と言って戒める。桃太郎も鬼姫一族も村に帰って一緒に暮らすハッピーストーリーだ。

 六さんは、今年で卒団になる高校三年生の二人の演技に注目した。一人はお爺さん役と鬼役を一人二役で演じた。お爺さん役ではゆったりした口調でお爺さんを演じきった。鬼役のダンスは18歳の若さが躍動した。もう一人の高校三年生は村役の与兵を見事に演じ、二役目の鬼役でのダンスは見事だった。二人とも一昨年の大空町公演に出演した。年長の二人は中学生、小学生、幼稚園生を統率するリーダーだった。引率する六さんの心配は二人のリーダシップで助けられた。二人の演技を見ながら北海度大空町公演思い出しこれから羽ばたいてもらいたいと思っていると幕になった。

 今回の脚本は、脚本家東直子先生が書き下ろした。先生は昔から語り継がれた桃太郎を「なぜ」の視点でこの脚本を書いたとパンフレットにあった。なぜ桃から生まれたのか?何故鬼退治に出かけたのか?生まれた時から正義の味方の桃太郎でなく「化け物」。鬼は生まれた時から鬼でなく頭に角があるだけの人間。桃太郎には心を通わせるお爺さんとお婆さんがいた。鬼にはいなかったがこのミュージカルで桃太郎が鬼に心を通わせた。

 幕が下り、団員の子どもたちに見送られて外に出た。暑さも蝉の鳴き声も清々しく駅に向かって六さんは歩いた。

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[2019/08/16 11:49] 未分類 | トラックバック(-) | CM(0)

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